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和太鼓
和太鼓は“叩かない”。皮面とともに心を“打ち”、限りなくゼロに近い「1」を目指して共鳴する
自分流のスタイルで、心からやりたいこと(=趣味)をとことんやり続けている人々は、どのようなスタイルでその趣味を続け、楽しみや喜びを得ているのか?今回は、ミュージシャンやアーティストが夜な夜な集う道玄坂のWarm Up Bar『しぶや花魁』の店長であり、和太鼓プレイヤーとしても活動している長敦裕(ちょう・あつひろ)さんが登場。30歳の頃に出会った以降、すっかり和太鼓の世界に心酔したと語る長さんにとって、和太鼓の魅力とは?

始まりはダイエット

——和太鼓との出会いを教えてください。

20歳から10年間くらい、イタリアンやフレンチのお店で働いていて、30歳の時に、ミラノに本店があるチョコレートやデザートが有名なお店の日本第一号店でマネージャーをやることになったんです。その時、余ったデザートをばくばく食べていたらすごい太ったんですよ(笑)。運動不足でもあったので、解消するために何か習い事を始めようと。

その頃、たまたま友だちに誘われて遊びに行った代々木公園のイベントで、プロの和太鼓グループの演奏を見かけました。同時期にテレビの習い事特集で和太鼓が取り上げられていたこともあり、「痩せるために、和太鼓、いいかも」と思ったんです(笑)。そこで、インターネットで検索したところ、最初にヒットした教室が、僕が代々木公園で偶然見かけたグループGOCOO[ゴクー]が主宰する『タヲ太鼓道場』でした。

——ルーツはまさかのダイエットですが、ご縁が重なって、和太鼓に呼ばれた感じですね。

そう、たまたまパフォーマンスを見たGOCOOのメンバーが、直接教えてくれる太鼓教室で。行ってみたところ、ドはまりしちゃって。

GOCOOは、日本よりもヨーロッパでの知名度が高く、映画『マトリックス』の音源や日本企業のCM(NISSANスカイライン)にも起用されています。最近はサカナクションやゆずともコラボレーションしています。

——いわゆる神社のお祭りで、法被着て演奏する和太鼓とは違う?

トラディッショナルというよりは、もっと実験的な表現を試みるグループです。だからこそ入りやすかったし、すんなりとはまれたのかもしれません。

当時の店は休みが日曜日だったのですが、太鼓教室も日曜日はお休みで、行きたいのに行けない。それが原因で、順調にいけば役員クラスまで行けたお店を辞めました(笑)。和太鼓を練習した過ぎて。

それからは、同じ飲食系でも割と休みの融通のきく派遣の仕事をしながら、あくまでも休みを優占して、太鼓教室に通うシフトを組みました。

限りなくゼロに近い感覚

——和太鼓の何が、どんな衝動が、長さんをそこまで駆り立てたのでしょうか。

非現実世界というか。普通の生活をしている中で味わえないような精神的な感覚が、和太鼓の世界にはあったんです。座禅に近い感じでしょうか。人間誰もが本来もっているはずの本能的な部分が覚醒して行く、その感覚が衝撃的で。

photo kent

——現代社会の情報に慣れた脳が、もっと原始的な状態に引き戻される感覚でしょうか。太鼓のリズムの秩序によって、無我の境地に没入したり、リズムに自分の体が適応したり。

そうですね、限りなくゼロに近い感覚というか。和太鼓は、和太鼓はみんなで息を合わせて、1つになって音を鳴らさなければならない。そこに集中する過程で、脳の中から余分なものが削ぎ落とされていく。

この感覚を言葉で伝えるのは、すごく難しいのですが、その境地に至ることは、普通の生活ではあり得なかったし、僕が30年生きてきた中で一度も体験したことはなかった。もっと深く知りたいと思い始めたら、居ても立ってもいられず、どんどん深みにはままって行きました。

太鼓でなくても、何かを集中してやることによって、同じ感覚に陥ることはあると思うんですよ。脳内麻薬が出たり、多幸感が生まれたり。その先にある、限りなくゼロに近いところを、僕は和太鼓で体験できたんです。

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趣味から自己表現へ

——太鼓教室にはどれくらいのペースで通っていたのでしょうか。

一番通い詰めていた時期は、週に4、5回くらい。

6年くらい習ったところで、せっかく学んだ技術を自分の表現として発表してみたいと思うようになりました。

当初、太鼓教室とは別に、例えば代々木公園で、和太鼓以外の楽器を弾く音楽仲間を集めてセッションする、といったことはやっていたんです。GOCOOのみなさんと一緒にフェスやお祭りに出演させてもらったこともあるのですが、得たインプットを、自分なりの形でアウトプットしたいという欲が出たということです。

photo kent

——今まで、どのようなパフォーマンスを行われたのでしょうか。

『しぶや花魁』の前に、青山の『CAY』というライブハウスで4年くらい働いていたのですが、そこのイベントに出演させてもらったことがあります。その店の店長が面白い人で、僕の和太鼓と、コンピュータで音楽を作るトラックメイクと、映像をミックスさせたユニットを「プロデュースするから一緒にやろうよ」といった流れで。

produce小島範之 track maker川口隆司 wadaiko長敦裕 BENZENE by VMTT永谷尚士

それぞれの違いが共鳴し合う音

——他の楽器とは違う、和太鼓ならではの特徴は?

大人数で和太鼓を打つ時、和太鼓同士は同じ楽器なのに、人によって全然音が違うんです。それがひとつのアンサンブルとして合わさった時の面白さが魅力的です。それぞれの音は違うけれども、全体としては共鳴し合っているというか。

——最初に習う技術的な型は一緒でも、太鼓と個人の相性によって音が変わる?

同じ太鼓を何人かで、同じリズムで、同じ型で打っても、全然音が違うんですよ。雨の日も、晴れの日も、風邪を引いている時も、違いが出る。

あと、筋肉むきむきの人が打っているイメージがあると思うのですが、力が入れば入るほど、いい音が出なかったり。煩悩が邪魔をして、リズムが乱れたり。

——うまくリズムを整えようとすることに集中すると、うまくいかなくなるんですね。

自分がどんな音を出しているか、自分にも聞こえるわけじゃないですか。そこで自分の手元や音のみに集中してしまうと、崩れてしまうことがあります。もっと頭の上の方の意識に目線を置かないと調和が生まれない。人生もそうですが。

——つまり、太鼓を学ぶのは、人生を学ぶことに等しい?

大袈裟ではなく、そういうところもありますね。今は、店が忙しいので昔ほど練習に行っていないのですが、面白いことがあって。半年ぶりに太鼓を打ったら、上手になっていたんですよ。昔できなかったことがすらすら出来るようになっていて。

練習していない期間に、自分を客観視できるようになったんです。音だけでなく、どういう風に打っているか、お客さん側から見た自分の姿をイメージしやすくなってきて。

——それは、『しぶや花魁』を始めて、一回り成長した人間性の影響もあるのでは。

いろいろな意味で、あるとは思います。この店は、いろいろなミュージシャンやアーティストさんがいらっしゃるので、良い刺激を受けています。

太鼓を打った時の音にも、打つ人の性格や人間性、その時々の気分が反映されますし。

——太鼓は “叩く”ではなく、“打つ”。

僕たちは “叩く”ではなく“打つ”と言っています。師匠の教えなのですが、和太鼓はドラムと違い、動物の皮で作られているので、“叩く”という表現はよろしくない。同じ意味なら、心を“打つ”。表面的なところではなく、もっと心や命の奥にあるものを鳴らすという意味です。

太鼓はシンプルな楽器なので、誰でも、子供でも、バチを振り降ろせば音は出る。でも、そこから開放される精神性というものは、修練を積み上げなければ体得できない。

逆にいえば、最初は叩いていた人も、修練を積むと、心を“打つ”音を鳴らすことができる。始めたばかりの人とベテランの音も全然違いますし、成長の過程もとても面白いです。

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——和太鼓をやっていて良かったことはありますか。

普通に生活していたら知り得なかった精神的な感覚を見つけられたこと。そして、音楽アーティストとして人前に出てプレイする高揚感。最も良かった点は、和太鼓や演奏を通じ、赤の他人と家族のようになれたことです。

あだ名しか知らない、本名も本業も分からない人でも、1つのことを共に集中してやり遂げると、意味付けや関係性の理解を超えた家族になっていく。修練した人たちと一緒に演奏すると、何十人いても1つになれるんです。みんなで1つの音を出せた時、ただの他人ではなくなるんです。

「1」の音を出すために、言葉で「こうしよう」と相談することはもちろんありますが、何度もみんなで合わせるうちに、言葉を超えた音の情報共有がだんだんと成され、自然と共鳴し合うエネルギーが生まれて行くんです。

——「1」に向かううちに、個々の我執が削がれていく?

太鼓を始めたばかりの人は、「1」から外れた大きい音を出す傾向にありますが、個が削がれ、みんなが「1」のエネルギーに集中すると、音が「1点」に集約される。その一体感にいつも感動を覚えます。

——最後に、これから和太鼓を始めたい人に、アドバイスはありますか?

太鼓教室にいらっしゃる時、最初の扉を開けづらいと思います。でも、勇気を出して入った瞬間に、物理的な意味だけではなく、精神的な意味でも、新しい扉が開かれます。最初の一歩を踏み出すことが大事だと思います。

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